猫撫で声によろしく

 はぁ……。職場のありきたりな事務机の前に座り、私は相変わらず溜め息を吐いていた。ただし、今日は自分の仕事の失敗ではない。まぁ、失敗自体はやっぱり多々あるのだけれど、今の私はそんなことでへこたれたりしないのだ。
 目を閉じてフォルムを思い描く。ふわふわの長毛で、しなやかな身体は丸みを帯びている。ぴこぴこと動くお耳は、先端の毛が少し長くてかわいい。大きな丸い瞳は、いつでもキラキラと輝いて、あらゆるものを追いかけている。すっと通った鼻筋の先は、魅惑のピンク色をして、健康的に濡れていた。閉じたときはつんとした表情に見えるが、わくわくと何かを見つめているときは笑っているように見える、小さなお口。
 私はあの日出会った「アゼムちゃん」に心奪われていた。その正体は十四人委員会の第十四の座、アゼム様その人に違いないのだが、彼女が猫好きの研究者に変身させてもらったという猫ちゃんの姿は、非常に愛らしかった。あんな美猫、なかなかお目にかかれない。その上、初対面の私に甘えて撫でさせてくれたのだ。惚れるなと言う方が無理な話である。
 どうしても、猫の彼女に会いたい……。人間だとわかっていても、あの姿をもう一度抱っこさせてほしい……。ふわふわの毛を堪能させてほしい……。煩悩にまみれた私は、ガタン! と勢いよく立ち上がった。こんなところで延々と唸っていても、何も事態は好転しない! 同僚が驚いた顔でこちらを見ているが、そんなの知ったことではない!
 幸運にも、各地を飛び回るアゼム様は、最近アーモロートに滞在している。煙のように突然消えてしまうお人だから、逃したら次に会えるのはいつかわからない。
 こうなったら、直接頼むしかない! お悩み解決がかりなどと揶揄されることもある彼女は、日々市民からの依頼を集めては奔走している。ならば、私がお願いしても問題はないはずだ。
 お願いします。どうか私に、もう一度だけ、微笑んでください!

「猫になってほしい?」
 道行けば、アゼム様がどちらの方角に向かったかはすぐに聞けて、見付け出すのは早かった。ああ、この間の! と笑顔で振り向いた彼女に早速要件を伝えると、アゼム様は頬に指先を当てて上を見上げた。
「はい! あの日のアゼム様のお姿が忘れられなくて……。あのお姿は! 私の愛する猫ちゃんの理想形の一つだったんです! せめてもう一度だけ、ふわふわを抱っこさせてほしくて……! 失礼なことを言っているのは分かっていますが、私、どうしても諦められなくてですね……!」
「あはは、そんな風に褒められると照れちゃうなぁ」
 頬に手を当てて笑うアゼム様に、私は期待した。アゼム様は、依頼をほとんど断らない。無理難題だと普通の人なら却下するものも、とりあえずやってみるね、と頷くことが多いのだ。
 しかし、アゼム様はやんわり微笑んだまま、首を横に振った。
「でも、ごめんね。その依頼は受けられないよ」
「だめ、ですか……」
 私はがくりと肩を落とした。確かに、人間だと分かっているのに、猫になってくれ、そして撫でさせてくれ、だなんて。いくらアゼム様でも断るだろう。彼女が望んでなった時とは、シチュエーションが違うのだ。
 アゼム様はそんな私を見て、ぱん、と両手を叩き合わせた。それから、くるくると指先を宙で回転させると、光が寄り集まってきた。光の粒子が形作ったものに、私は目を瞬いた。
「にゃあ」
 光の色が落ち着いたとき、アゼム様の腕の中に居たのは、あの日の「アゼムちゃん」だった。ふわふわとした橙の毛色も、整った顔立ちも、お腹の白さも、長い尻尾の毛並みも、全部があの日の姿である。
「代わりにこの子で我慢してもらえないかな?」
 私は感動して目を見開いた。手を差し伸べると、抵抗なくアゼムちゃんは伸びたまま大人しく私の手に預けられた。温もり、重み、柔らかさ! ああ、あの子だ!
 アゼム様は、小さく笑った。
「私が誰かに触れられると、怒る人がいるから、私はもうあげられない。私自身は構わないんだけど……まぁ、彼に悪いなと思うわけだよ」
 私は、そんなアゼム様の表情に息を呑んだ。微笑むその口元は、なんだか妙に、色香を感じて。
 普段鈍い鈍いと言われる私でも、察するものがあった。彼女に独占欲を抱く人が、ヤキモチを焼いてしまうから、断る。多くの人を愛する彼女が最優先する「彼」は、間違いなく特別だ。恐らくそれは、恋人とか名の付く、あれである。
 ぐるみゃあ、と鳴いた猫ちゃんを抱いて、私はその顔を覗き込んだ。この子を「アゼムちゃん」とはとても呼ぶことが出来なさそうだ。でも、私はこの見目と人懐こさと気ままな姿に惚れ込んだ。彼女の魂までは求めるつもりがないし、そんなことをしては「彼」に焼かれてしまう気がする。色んな炎によって。見た目だけでも借りられたことは、ひどく幸福であると思う。
 腕の中の猫型使い魔は、喉を撫でると気持ちよさそうに目を閉じて擦り寄ってくる。それにしても、と彼女を可愛がりながら、私はへらりと笑った。
「アゼム様、恋人居たんですねぇ。そうとは知らず、悪いことをしてしまいました。前回、こってり絞られちゃったんでしょうか?」
 猫をじっと見ていたアゼム様は、「うーん」と唸って腕を組んだ。
「別に、恋人では、ない……?」
「………………えっ」

 かし、と窓の外から引っ掻くような音がして、エメトセルクは怪訝な顔で窓を見遣った。すぐに異常は目視でき、はぁ、と溜め息を吐く。読んでいた本を一旦サイドテーブルに伏せ、ぱちんと指を弾いた。
 窓に掛かっていた錠が解ける音が響く。風を吹き付ければ、外側に向けて両開きの窓が開いた。
 にゅっ、と三角の耳が最初に覗き、ついでいつもと同じ色をした丸い瞳が枠の上に現れる。枠に手をかけてぴょん、と押し入ってきたのは、橙の色の毛並みをした猫……否、アゼムだ。
 つい先日の件を思えば無視したかったのだが、小型の獣になってもアゼムはアゼムである。エメトセルクが折れるまで延々と窓ガラスを引っ掻き続け、騒音公害を発生させることは目に見えていた。にょろん、と軟体生物のように侵入してきたアゼムは、エメトセルクの顔を見るなり駆け寄って、ぴょんとその膝に飛び乗ろうとした。
「おいやめろ! 寄るな、懐くな! 許可していない!」
「ぐるみゃあ!」
「お前爪伸び過ぎじゃないか!? ローブに爪を立てるな!」
「……みゃーん!」
「それはごめん、じゃない。ああくそ、獣の言葉なんて覚えるものじゃないぞ全く……」
 身を引いたエメトセルクの膝の上で、アゼムが後ろ足で首に括った何かを蹴った。見れば、アゼムは何かを包んだ袋を背負っている。結び目を解くと、中にはいつか見た翻訳装置が収まっていた。
「準備の良いことだな……」
「にゃん!」
「褒めてない」
 とはいえ、にゃあにゃあ騒ぐ生き物といつまでも対峙しているわけにもいかない。思い通りになるのは癪だったが、エメトセルクは取り出したそれをアゼムの首に巻き付けた。同じようにブレスレットを手首に嵌めて、アゼムをむすりと見下ろす。
「……で、そのふざけた見た目は何だ」
「撫でろ!」
「は? 今喋ったのは人語か?」
「失礼だな! 聞こえてるし、聞き取れてるだろ!」
「訳のわからない単語が聞こえた。翻訳機の不調に違いない」
「なーでーろ!!」
 アゼムはエメトセルクの胸元にぱりぱりと爪を立てた。小さな身体をはたき落とすことも出来ず、エメトセルクはアゼムの脇の下に手を突っ込んで精一杯に遠ざけた。不満げなアゼムがエメトセルクの手に噛みつき、身体をよじって後ろ足で蹴りを入れようとする。
「いつにも増して凶暴だな」
「いつも凶暴みたいに言わないで!」
「そう言っているんだが?」
「クソーっ! 言っとくけどなぁ! きみが悪いんだからなぁ!」
 毛を膨らませたアゼムに、エメトセルクは少しぎくりとした。普段なら「何を言っている、お前に対して瑕疵など発生する筈がないだろう」と叩き伏せて終わるのだが、現状、アゼムに対しては言い逃れのできないやらかしがある。
 ……そんなこと、するつもりはなかった。そう、いくらでも述べられるが、全て言い訳に過ぎないのだろう。
 猫の姿になって他人に媚びを売っていたアゼムに腹が立ち、組み敷いて跡を残した。完全に拗らせた感情から生じたものだ。エメトセルクは、長くアゼムに恋愛感情を抱いている。アゼムの方は全く気付く気配も無いが、よほど鈍い人間でもない限り、周囲にも勘付かれているだろうと思っている。
 しかし、恋をした相手が知らない相手に甘えた声を出し、あまつさえべたべたと触られ、気持ちよさそうに喉を鳴らす様を静かに見ていられる男が居るだろうか? 女性や子供でもどうかと思うし、男が触れようとした時など、誘うアゼムの背後から真剣に睨んでしまった。自分でもらしくない行動だとは思うが、少しは気持ちを汲んでほしい。
 ……ただ、実力行使に出てしまったのはまずかった、と思っている。しかもアゼムときたら、そんな実力行使にも怯える気配なく「もっとする?」と手を広げる始末なのである。耐えかねて見える位置に跡を残したが、まるで自覚する様子はなかった。目ざとい友人は、翌日厭になるほど突き回してきたのだが……。
 それからというもの、エメトセルクはまともにアゼムを見れていない。勝手な苛立ちである。そもそもアゼムが何をしようとエメトセルクを意識しないのは今に始まったことではない。ここまでしても駄目なのか、と拗ねていたところで、さっぱり伝わらないのが実状なのだ。
 ふん、とエメトセルクは顔を背けた。
「元はと言えば、お前が誰にでも媚びるからああなったんだろう。お前だって仮にも女だ。男を前にして煽るような真似をすれば、間違われることもある。手を出す方が悪いのはいわずもがなだが、私にだって主張する言葉はある」
「いや、それは別にどうでもいいんだけど!」
「どうでもいい、と……」
 そうだ、こいつはそういう女だった。エメトセルクはアゼムをそっと膝に置き、額を押さえた。溜め息も出るものである。何度繰り返しても、この反応をするのがエメトセルクの好いた女だった。
 どうでもいいとまで言われると、投げやりにもなりたくなる。肘掛けにもたれて項垂れたエメトセルクの胸を、アゼムが登って顔を近付ける。
「問題は、きみがめちゃくちゃ私のこと好きなのに避ける話だよ! あんなことまでしておいて、今更避けるってどういうつもり? 普通は押すものだってこの間の女の子も言ってたよ!」
「……待て」
 エメトセルクは顔から手を外し、覗き込んでくるアゼムに視線を向けた。ふんすと鼻を鳴らすアゼムは、たしたしと爪の出ている手でエメトセルクの肩を叩いた。普通に痛い。
「私が、……お前のことを、好いていると」
 全く間違ってはいない。いないのだが、目の前の、猫の姿を再び取って家に押し掛け、撫でろと主張するアゼムがそう口にするのに違和感しか覚えられなかった。自覚があって、それをしていると? 何を考えているんだ。エメトセルクはいっそ腹が立ってきた。相手を聖人君子と思い込むのにも限度があるのではないか。
 アゼムはエメトセルクの言葉を聞き、ぐっと意図的に爪を立てた。
「否定はさせないよ。私が意識してないとむかつくし、他の誰かに触られるのもいやなんだろ。ヤキモチじゃん。きみは! 私のことが! とても好き! きみは何とも思ってない異性を押し倒せるほどノリが良くない!」
「はぁ……」
 エメトセルクは、深く溜め息を吐くと、アゼムの顔を両手で包んだ。真っ直ぐ猫の顔と目を合わせると、チッと舌打ちをひとつ。
「で? その上で、お前の要求は?」
「撫でろ」
「正気か?」
「好きな相手に対してその言い草なくない!? 泣いて喜べよ! 撫でろ! もふもふしろ!」
「だから、私はお前を人間のアゼムとしてしか見られないと……!」
「わからないやつだなぁ!」
 アゼムがエメトセルクの片手を抱え込んだ。また噛み付くつもりか、と身構えたその指を。アゼムの舌がざらりと舐めた。棘の生えた舌で行われるそれは、人にとって決して心地よいものではないのだが。行う意図としてはグルーミング、愛情表現の一つである。
「……さすがに、さ? ヒトの姿じゃ、私も撫でられたいとかは言いづらいわけだよ。でも、猫だったら合法で撫でてもらえるし、前みたいにぎゅっとしてくれるかもしれないだろ。……この姿で撫でられると、すっごい気持ちがいいの。きみが撫でてくれないなら、超絶テクニックのあの女の子のところに逃げてやるからな! もう妬きたくないなら大人しく私を撫でろ!」
 つまるところ。同じ熱量かは不明だが、それなりにアゼムもエメトセルクのことを特別に思っていると。回りくどい、と自分を棚に上げてエメトセルクは呻いた。この女ならもっと単調な手がいくらでもありそうだったが、いっそ斜め上から突き抜ける様は、らしいと言えばらしい。
 エメトセルクは手を伸ばした。頭を撫でてやろうとすると、先んじて耳が倒れる。待ち焦がれた、とでも言いたげな顔に、大人しく手を滑らせる。ふわふわと柔らかい毛並みは、撫でている側としてもそれなりに心地いい。
「……もっと」
 無言で撫でていると、そんな催促があった。背の方まで撫で下ろせば、長い尻尾がぴるぴると震えた。抱き寄せて肩口に手を掛けさせる。頭から背まで長く撫でる手に、耳元でごろごろごろ、と満足げな音が響く。
「耳の後ろ、して?」
 ねだられるままに、指先で耳の後ろを掻いてやる。アゼムの身体がぴくん、と震えて、「はぁ……」と艶っぽい溜め息が聞こえた。きゅ、と肩にかかった手に力が籠もり、爪が甘く肌に食い込んだ。
「気持ちいい……」
 エメトセルクは無言でアゼムを引き剥がした。とろん、とした目をしていたアゼムは、はっ、と覚醒したように瞬きをした。
「なんで! やめるのさ! もっとして! きみだから気持ちいい!」
「その物言いはわざとなのか?」
「技術としてはあの子の方が上なんだけどね?」
「神経を逆撫でするな」
「ねぇ、お腹吸ってもいいからぁ……! もっとしてぇ……!」
 猫撫で声を出して撫でることを要求する猫を、エメトセルクは膝に落とした。別に、猫の腹に魅力はそれほど感じない、の、だが。
「戻れ。猫に欲情する特殊な人類になりたくない……」
 苦い声に、アゼムは目を丸くして、それからうつむいて、肩を揺らした。ぐぐ、と背を反らして伸びをすると、手をエメトセルクに近付ける。その柔らかく小さな手は光に綻び、滑らかな肌へと変化した。創造したローブとともに身を再構成したアゼムの体重が、エメトセルクの身体にのしかかる。
 べたりと胸を合わせて乗り上げたアゼムが、エメトセルクの首に腕を巻き付けながら囁いた。
「戻ったよ。続き、してくれる?」
 エメトセルクの手が、アゼムの首の後ろを引き寄せる。丸い耳に、指先が髪を掛けると、そのまま耳殻をくすぐり、裏側を爪で優しく掻いた。アゼムはぴくん、と肩を揺らし、エメトセルクの肩口に鼻先を擦り寄せた。
「……もっと」
「……これ以上?」
「そう。これ以上」
 椅子の座面に膝を立て、アゼムは溶けていた身を起こす。エメトセルクの仮面を片手で奪うと、頬に手を添えた。薄く開いた唇が近付こうとしたところで、エメトセルクの指が間に入った。ふに、と柔らかく潰れた唇に、アゼムが目を半分下ろして睨む。
「まだ、お前の心を聞いてない」
「堅苦しいやつだな」
「信用できない」
「ここまでしといてそれはないだろ? 私の気持ちは十分に伝わっているはずさ」
 アゼムの言葉に、エメトセルクは一瞬躊躇ってから、口を開いた。
「……聞きたい。お前の言葉で」
 小さな囁きに、アゼムは驚いた顔をした。それから、ふにゃりと擽ったく笑った。
「そう言われたら、お預けは出来ないな」
 乗り上げたアゼムがエメトセルクに抱き付く。
「好きと言えたら、いっぱいしてね?」
 伺いの時点で相当に呻いたのだから、本気で落とす気で口にした言葉に、正気でいられる筈がなかったのだ。

「ぐるにゃーん!」
「……」
「……」
「わー、待って待って……あっ、アゼム様!」
 アゼム様に譲り受けた使い魔ちゃんは、創造物管理局内で人気のマスコットになっていた。自由な猫らしい猫でありながら、ちゃんと入って困る場所は理解してくれるし、いたずらも愛嬌のある可愛らしいものである。ご飯もエーテルの補充で元気にしてくれるから、事務員たちの間で猫派犬派を問わずに可愛がられている。
 ただ、やはり創造者の気質ゆえか、自由気まま過ぎるところも時々ある。何かを見付けたのか事務室を飛び出した彼女を追いかけると、階下にはエメトセルク様とアゼム様が居た。
「……アゼム」
「……よーしよしよし、可愛いねぇ」
「……アゼム、こいつは?」
「どこにでもいる普通の使い魔ちゃんだねぇ、可愛いねぇ、……あっ待った! ちょっと!?」
 使い魔ちゃんは最初アゼム様のもとに駆け寄ったのだが、エメトセルク様の顔を見るなり、すりすりとその足元に擦り寄った。抱え上げたエメトセルク様が見せ付けるのに、アゼム様は目を逸らしている。どうしたんだろう。
「捕まえてくださってありがとうございます〜!」
「お前、この間の……」
「あ、あああ……」
 アゼム様が顔を覆って唸っている。私はぺこりとお辞儀した。
「お疲れ様です! 局長呼びますか?」
「いや、いい。あいつは向こうから勝手に来る。……ところで、こいつについて聞いても?」
 エメトセルク様に抱えられた使い魔ちゃんは、ぐるぐるむー、とご機嫌な様子である。私でもそこまで懐かれてないのに……! 猫を引き寄せる何かしらのエーテルが出ているのだろうか? ちょっと羨ましく思いながら、私は頷いた。
「この間、アゼム様に頼んで創って頂いたんです。本当はアゼム様にもう一度だけ変身して貰おうと思ってたんですが、それだと怒る人が居るから、っていうことで、レプリカな使い魔ちゃんを。結果的にずっと一緒にいられますし、今や局内のアイドルなんですよ!」
「なるほど……」
 エメトセルク様が差し出す彼女を受け取ると、彼女は私の腕の中でごんごんと顎に頭を擦り付けてきた。可愛いねぇ、と耳元に唇を寄せる。機嫌のいい彼女を抱き締めていると、出会ったときのことを思い出す。あれから少し、時間が経っているけれど……。
「……そうだ! アゼム様、この間の『彼』とはどうなりました?」
「えっ? あっ!」
 アゼム様は慌てて、エメトセルク様を見上げた。私は憤りのままに言葉を続ける。
「やっぱり、普通だったら手を出したらとことん行くべきですよ! せっかくいい雰囲気になったのに手を引くなんて意気地なしです! 男らしくありません! 恋人でもないのに束縛するなんて、どういう権利でそういうことを言っているのか不思議です!」
「ストップ! ストップだよ!」
 手を伸ばしてきたアゼム様に唇を物理的に塞がれて、私は目を瞬いた。エメトセルク様は、何だか妙に、いい笑顔だ。
「……なるほど、彼女には一つ礼をしなければならない訳か。お前が訳のわからない行動に出た理由が痛いほどに分かった」
「…………えっと、だからね、その。いや、悪気はないんだ、本当に。あの、その、使い魔のことは、見逃して……? 彼女は厳密には私じゃないから、セーフだと思ってだな……」
「……後でお前、覚えていろよ」
 低く囁く声に、私は首を傾げた。

 私を焼き尽くしかねない「彼」の正体を知ったのは、局長が合流し、さんざん笑い転げた後のことであった。