ラウ・ラシュレーという女 - 1/9

ミコッテ族女性、ヘレナ・シュテラー曰く|エルガナ・カッリ

 ……アンタ、冒険者?
 全く、ジズ程度で逃げ惑ってたら先が思いやられるわよ。はぐれたように見えても、群れの仲間は攻撃されたら気付くものなんだから。狙うなら、気配が完全に孤立した奴じゃないと、せっかく弓を持っている意味がないわよ? リテイナーに説教を受けるなんて、へっぽこも良いところね。
 ええ、私はリテイナーよ。元々狩人ではあるけど、名声やら人助けやらとは無縁。……なに。助けてくれただろ、ですって? ふん。たまたまラプトルを狩っていたら必死で逃げてる可哀想な生き物が居たからちょっと射掛けただけよ。あの程度の獣なら、矢一本で事足りるわ。
 ……な、なによ。キラキラした目をしちゃって。恥ずかしい奴ね! 大体、冒険者なら自分の身を守れて当然なんだから。うちの馬鹿だって、平和ボケした頭だけど自分の身くらい自分で守れるわ。
 馬鹿が誰か? ……うちの主、ってやつよ。強いかって? はん、アンタよか強いでしょうね。伊達に五年以上冒険者やってないんだから。
 ちょっと、やたら食い付いて来るわね……。言っとくけど、少し戦えるだけであいつは基本馬鹿よ。お人好しで、他人を疑わず、他人に利用されても文句の一つも言わないで、身を砕いて尽くせば報われるって信じてるんだから。大体、何でアイツ冒険者やってるのよ。同じ里で昔から聞いてたのは「モノ作りの人になる」一択だったわよ? 里を出たのだって裁縫師になりたいから、本場ウルダハのギルドに入門する……とかだったのに、寄り道ばっかりでグリダニアすら出ようとしなかったのよあの馬鹿。そのグリダニアも出るきっかけも、冒険者ギルドの要請でウルダハに用が出来たとかで……はぁ……。
 ったく、仕事なんざ金額の分だけこなせばそれでいいのよ。それが何? 人の役に立てればそれでいい? ばっかじゃないの。人が生活するのにはギルが必要なのよ。取り立てを私がしなきゃ、アイツ食い潰されてすぐ野垂れ死ぬんじゃないの。ほんっと、私が居ないと駄目なんだから……。
 ……優しい冒険者なんだなって? アイツはただ甘いだけよ。言っとくけど憧れるもんじゃないわ。いつまでも夢見てる女なんだから。でも強いんだろって? そりゃまぁ、……それなり、それなりよ。アンタよか遥かに強いけどね!
 ハァ!?そんなに心配して大好きなんだな、ですって!?弓術士の癖に目も養われてないのね、可哀想に……。アイツとは腐れ縁なだけだから! たまたま同じ集落、ほとんど変わらない年に産まれてなかったら、あんなヤツ関わりもしないわよ。マシなのは製作の技術くらいだから。……う、そりゃ、里を出た後は自由よ。たまたま! 私が狩人をしながら出来る職を探してて、丁度その時アイツが私財管理人を探してただけなんだから! ああもう、子供の癖にうるさいわよ!
 ……って言うか、ずっと気になってたんだけど。そのグローブ、ボロっちいわね。どうせ安物を買ったんでしょ? まだ初心者の頃に手の届く品で揃えるのは間違ってはいないわ。でも、良いものだからこそ、手入れして長く使えるの。それなりの安さはそれなりの品のことがほとんどよ。アンタ、まだ駆け出しならそういう良品を探すツテもないわよね? あのね、道具を選ばず戦えるなんて幻想よ。たとえ一流でもそうなんだから、アンタみたいなペーペーが夢見てるんじゃないわよ。
 これ、持っときなさい。そう、店の名刺。うちの主のね。私も、アイツの製作の技術だけは自慢できるわ。だけ、はね。ポンコツで馬鹿だけど腕は確かなのよ。
 この国の冒険者居住区、ラベンダーベッドへの行き方は分かる? ヘレナの紹介と言えば分かるようにしてあげる。アンタの手に届く値段で良品を買わせてあげるって言ってんのよ。技術が上がってきたら装備を新しくするのも大事よ? ……あのね、ボロい防具や道具で死んだら寝覚めが悪いから言ってるだけだから。死ぬ時は死ぬけど、用意してたら死なずに済んだのに命を落とすなんて、この上なく馬鹿らしいことだわ。
 お姉さんも優しい? ハァ? 馬鹿言ってないで、もっと強くなるように気配の読み方でも学びなさい。次は助けてなんてやらないんだから。良い? 本当に助けないわよ。助けられないように精進するのね。
 精々強くなって、うちの品を使いこなしてみなさいよ。じゃあね。