ラウ・ラシュレーという女 - 8/9

ヴィエラ族女性、ライラ・ナハト曰く|ヴァルラム・リエラシュ

 おじさん、裁縫の依頼? ……違うの。じゃあ、何でウチに来たのさ。
 ……へぇ、姐さんと同じ郷に住んでた人。直接本人に用事と。お前、ロスガルだよな。姐さんはグリダニアの出だぞ。ふーん、こっちに渡ってきた移民二世か。育ったのはリムサ、奥さんが姐さんと同郷、ね。……ん、信じてあげてもいい、のかな。
 そんなに警戒しなくとも、か。ふん、ボクはあの人を守りたいだけ。……そりゃ、ボクより彼女の方が強いよ。でも、守ってくれたから。代わりに、あの人を助けたいだけ。
 入んなよ。姐さんは今グランドカンパニーに行ってる。今日はすぐ帰ってくると思うよ。紅茶? コーヒー? 紅茶ね、蜂蜜は? ……顔の割に甘い物好きなんだな。
 ……守る、守られる。何があったって?
 ボク、ヴィエラだろ。ロスガルみたいにエオルゼアでは珍しい。そう、ダルマスカ近郊の森生まれ。郷はもう無いけどな。帝国にやられた。母さんに連れられてこっちに逃げてきたんだ。
 母さんはこっちで娼婦をやってボクを育てた。ボクも成年になって、女だと分かったから客を取らされそうになったけど、逃げてきた。ついでに言うと、元々ヴィエラの郷には男がいない。男だとわかったら郷の外で暮らすからな。だからか知らないが、今もまで生きてきて出会った男は獣だらけだ。……お前の顔のような話んじゃないから安心しろ。まぁ、そんなこんなで男は嫌いなんだ。姐さんの客だから頑張るが、ボクは元々接客の担当じゃないんだからな。
 姐さんとの出合い? ウルダハで家なしの乞食をしてた時に、男に連れ込まれそうになってたのを助けてくれた。……うん、彼女、普通のミコッテの女の人だから、ルガディンの大男なんか、怖いに決まってるのにね。ボクだって、浮浪者そのものの見た目をしてた。だから、悲鳴をあげてもどうしようもないって、諦めてたのに……。
 離しなさい、って。震えた声だった。でも、よく通る声だった。幻術士の杖を構えて、路地の入口に立っていた。何だぁ、って男に威嚇された。終わったら金をやるから、それで構わないだろう、って下卑た声で男が笑うのに、彼女は目を見開いて、杖を振った。
 短縮詠唱の術式みたい。巨大な岩石が、真っ直ぐに僕らの隣を轟音を立てて飛んでいった。次は当てるわよ、と。今度は震えなどない、凛とした声だった。男は舌打ちをして、ボクを突き飛ばして逃げていった。
 へたり込んだボクのもとに、彼女は駆けてきた。そしてボロの服を更に破かれたボクに、鞄から取り出した綺麗な絹織物を被せた。助けてくれて嬉しいけど、ボクには何も返せるものなんかない。そう言って断ろうとしたんだけど、しゃがんで顔を覗き込む彼女を押しやろうとしたボクの手を、彼女の小さな手が絡めて握った。
 働き口ならあるから、働いて返して頂戴、と。てっきり娼館にでも売られるのかと、身体が強張ったけど。ボクの手を引いて歩いていった先は、表側の道だった。それで、建物に備え付けられた窓口にいるララフェルに向かって、彼女は言ったんだ。
 新しい私のリテイナーよ。登録はお願いできて? って。
 窓口の人は呆れてたし、ボクも驚いた。リテイナーって、規定の人数以上を雇うには協会にお金を入れなきゃいけないんでしょ? そんな、恩人にお金を払わせるなんて、って言ったけど、彼女はずっと表情を変えないまま。貴女が嫌なら、無理にとは言わないわ、なんて言う。そして、続けて言うんだ。でも、私は新しいリテイナーを必要としているわ、って。
 馬鹿みたいだよね。出会ったばっかりの浮浪者をさ。ボクみたいな人、きりがないじゃない。正義感だけで、危険に身を晒して、お金が出ていって。馬鹿なんだよ、あの人。後のこと全然考えてない。
 巡り合わせを信じているの。彼女はそう言った。たくさんの人を同じように救えはしないけれど、ニメーヤが紡いだ糸に抗いはしないわ、と。その時に救える人が居たのなら、その度に彼女は行きあたりばったりで助けていく。
 馬鹿。今だってそう。裁縫だけしてればいいのに、蛮神と戦う力がどうのって、求められたらどこでも行っちゃう。ボクだって、ボクだってさ。彼女のことが、心配なのに……。
 ……あ、紅茶、ちょっと冷めた。……猫舌だから良いって? その……ゴメンナサイ。う……、まだ人は苦手だし、男なんか特に嫌いだ。だけど……変わりたいんだ、あの人に報いるために。
 今は、財産の管理のほかに、園芸師の仕事を彼女とノーラ……先輩に習ってる。まともな働き口だもん。頑張るよ。おじさんもさ、大概、お人好しなタイプだろ。こんな、下手くそな接客でも怒んないんだもんな。
 神様なんかいるのかわかんないけど。おじさんみたいなヒトに、こういうことを喋ってる今があるんだもの。ニメーヤだけは、信じてあげてもいいかな。ボクにとって、いい出会いを手繰り寄せるのはあの人なんだけどさ。運命の女神様は、いるのかもね。
 ふーん、奥さんとの運命の出会い? 話したそうじゃん。聞いてあげる。おじさんの運命の女神さまは誰かな。……へえ、そんなとこにも姐さんが? じゃあ、姐さんが帰って来ないように。珍しいお祈りをしてあげてもいいよ。
 たっぷり、聞かせてごらんよ。冷めた紅茶と一緒に、飲み干してあげる。