世界樹の幹

 そう、とオスクは頷いた。その顔に驚きの色はなく、ただ噛み締めるようにそっと目を伏せた。
 ヴィエラの雄は、子を作る為に里に下りる。数年に一度のその時間は、女にとってはほとんど唯一の男を知る瞬間である。逆もまた然りで、集会場には大人たちが集まり、互いの持つ情報を交わしていた。
 ビョルクは遅れてやって来たオスクを見るなり、微かに目を逸らした。その瞬間に、彼にとって好ましくない事案が我が子に訪れていたのだと知ったのだ。だから、寄った先で彼が口にした言葉に、いっそ安心した。
「二人はもう、森にはいない」
 森にはいない。何事も端的に言い表す雄の言葉に間違いはない。死んだなら死んだと述べるだろう。だから本当に、その身はきっと森の中にないのだ。しかも、二人ですって。オスクは髪をかき上げ、薄く微笑んだ。
 知っていた。あの子の気持ちの行き先を。何があって森を出ることになったかは知らないが、二人という言葉が付いた時点で、それはあの子にとっての最良であっただろう。気付いていた。あの子が男になった時点で、彼の望む先は森の中にはないと。
「ありがとう、育ててくれて」
 オスクの瞳に、ビョルクは黙った。二人の間にそれ以上の言葉は生まれなかった。
 はらから産み落とした子であるが、産まれた瞬間からその命は個々のものだ。初めの娘は外へ出た。二人目の息子も外に出た。行き先は自由だ。母であるからといって、縛れる理由もない。二度と子の顔を見ることはないのだろう。少し寂しくはあるが、悲しくは思わなかった。
 ヴィエラの生から言えば、目まぐるしいだろう外の世界。輪郭しか漏れ聞こえぬ森の中で、彼らの行く先を知る日は来るのかしら。どちらでも構わない、とオスクは思った。知らぬところで命が続くのは、今に始まったことではないのだ。