夜灯に気を付けろ

「へ? さっきのやつ、俺に気があるって?」
 きょとん、とした彼は、言葉の意味を飲み込んだ途端、だはは! と大笑いしてみせた。爆笑する彼を前に、僕はむむむ、と眉間に皺を寄せる。
「さっきちょっと手、触られてただろ」
「確かにな〜」
「笑い事じゃないよ」
 どうしてきみはそう、危機感がないんだろう。僕にそういう風に見られるのはいいくせに、他の男からの視線には無頓着なんだから。酔っている彼の足取りは軽く、楽しげに振られている片手を僕はきゅっと掴んだ。先行していた彼が不思議そうに振り返る。
「お前、俺がどうこうされるタマに見えるか?」
「そりゃあ、きみの腕っぷしは強いさ。だけどね、二人以上で来られてごらんよ。きみひとりでどうにか出来るつもり?」
 いくら個人が強くたって、数で押し切られたらどうしようもない。杞憂だと思いたいが、心配になるのが想う身というものだ。
 本当は、僕を頼って欲しいんだけどな。小さく溜め息を吐く。単純な近接での取っ組み合いで言えば、彼の方に歩がある。だからきっと、彼は僕のこと、守ってあげる側だと思っているのだ。
 不意に彼が立ち止まった。宿屋へと続く、店から漏れる灯りに照らされた道の真ん中で、僕も立ち止まる。微かに頬を赤くさせた彼からは、酒精の匂いがした。
 くん、と手が引かれ、つんのめる。彼の腕の中に引っ張り込まれて、僕は目を丸くした。彼は赤く明るい目を細めて僕を見上げている。
「ちょっ、なに? 人前で」
「なぁ、ダーリン? 何かあったらお前が飛んでくるだろ?」
 つつ、と指先で喉元を擽られて震えが走る。いたずらな人差し指をぎゅっと握って、僕は彼を睨んだ。
「何も起こってほしくないって話をしてるんだけど」
「その辺はお前よか、上手いと思うけどなぁ?」
 頼りにされているのだか、弄ばれているのだか。頼られたいとは言えど、彼の楽しむ材料にされては敵わない。わざとだよ、とでも言うような彼は、ぱっと手を離すと、踊るようなステップでまた歩き出した。その背中を見つめて、一滴も呑んでいないのに頭が痛むような気がする。
「何か起こるんなら、そん時は俺が相手の頭かち割ってるからな! 何か起こる前に助けろよ!」
 くる、と振り向いて物騒なことを笑顔で言う彼に、僕はがしがしと頭を掻いた。どこかの不埒な誰かの為にも、僕は彼を守らないといけないようだ。