其は、星繋ぐ業。見えぬ縁を具現化する術である。
アゼムは投げられた姿勢から、くるりと無理矢理に宙で身体を捻った。転身したならばともかく、人の身のまま宙を駆けるイデアはまだ申請されていなかった筈だ。重心を引っこ抜いて、地面へと叩き付けるように。イメージさえ出来れば、身体は動いてくれる。
足から着地して、ブーツが草花茂る大地を抉って滑り、やがて止まった。ああ、可哀想に。アゼムが見据える先から一直線に、ぶちぶちと千切られた植物と掘り返された土が続いている。
(困ったなあ、予定外なんだけど)
アゼムは宙に手を伸ばし、光の中からそれの柄を掴んで構えた。相対するのは暴走したゴーレム型の魔法生物。アゼムの背後にはその召喚者である五人の少年少女たちが居る。召喚者であるが、既にかの創造物からは敵視を買ってしまっており、アゼムが引けば危険が及ぶだろう。
アゼムが空気の異変に気付いて駆け付けた時には、既に暴走は始まっていた。
聞けば子供たちは、大人から聞かされた「最近魔物が凶暴になっており、近付いてはいけない場所」が元々の遊び場だったらしく、取り返そうと魔物より強い存在を創った。初めは、上手く魔物に向かっていったらしい。
しかし、創造魔法に慣れない子供の召喚者ながら、五人の力が合わされば、それなりの魔力量になる。しかも設計は「倒すこと」に特化していた。故に想定より強く、リミッターと呼べる機能が実装されていない存在が生まれてしまった。魔物は無事に倒したが、止まらず、目に付いた動くもの全てに攻撃性を向け続けた。止まれ、と石を投げ付ければ、召喚者であろうとも関係はない。
ちなみにアゼムは、子供たちに遊び場を返そうとした大人たちからの依頼で、凶暴になっている魔物の討伐に赴いた訳だが。
一足遅かったなぁ、と溜め息を吐き、地面を蹴り出す。宙に舞い、体重とエーテルの補強を乗せて、ゴーレムの肩の継ぎ目へと長槍の先端を叩き込んだ。
全身に巡らせた魔法の回路がその身を構成している魔法生物は、術そのものを破壊してしまえば解体できる筈だ。硬質な岩石で出来た身体に護られるコアは後回しで、まずは関節から切り離していく。今まで初めて見た創造物を討伐してきたのだ。友人たちのように「視えて」居るわけではないが、セオリーとして、どう対処すれば良いかは検討が付く。
バチバチとエーテルとエーテルがぶつかって光を散らす。一撃じゃ無理か。もう片腕が振りかぶられたのを見て、アゼムは胴体を蹴り付け、大きく宙返りをした。一瞬前まで身体が存在していた空間を、太い腕が轟音と共に薙ぎ払う。空振ったが、戻す勢いで、今度は大地に拳を打ち付けた。アゼムは槍を放り、両手を翳すと大盾を構築した。タワーシールドを両手で構え、それを起点にエーテル壁を構築する。大地を伝わった衝撃波はアゼムの手元でゴリゴリとバリアを削ったが、何とか持ちこたえた。もちろん、遠く背後も問題はない。
とはいえ。弱ったなぁ、とアゼムは呟いた。大盾を宙に還して、今度は細剣へと持ち替える。誘うように横に跳ねるが、一度狙った獲物はしつこく追い立てるタイプなのか、射線をずらそうとしても狙いが子供たちへと向いてしまう。近接に持ち込めば虫を払うようにアゼムを狙うようになるのだが……。
導き出した結論は、「一人じゃ難しい」ということ。
アゼムには、魂に焼き付いたように、昔から得意とする術があった。対人の召喚術である。
普通、転移術とは灯台のような起節点を用いるのが主流だ。地脈に沿って身を流すのは理に適っていて、魔力の消費が限りなく少なく抑えられるし、出口を見付けられず行方不明になる心配も殆ど無い。
一方、直接指定した座標に現れる転移は、多少習熟しておかないと事故が起こりうるものだ。適正だってある。だからこそ、人の通り道にはナビやエーテライトを据えるのである。
しかし、それを捻じ曲げるのがアゼムの持つ技能だった。
自らの魂を灯台として、地脈から吸い上げる。感覚で出来てしまったものだから、他の人間に正しく伝えるのは難しいが、大体そんな原理だ。喚べる相手は結ばれるべき星。もちろん縁が近い相手の方が捉えやすいが、アゼムは、未来で出会うべき人すら招いて見せる。
現状として。アゼムは敵に急接近して、細剣を振るった。もう戦闘は始まってしまっている。接続先に訊ねて応答を待つ時間も惜しい。説明もなしに喚び出せて、これを相手に、共に戦える強さのある人。
敵の腕が振り下ろされるのに合わせて、大きく距離を取る。剣を掲げ、大地を穿つ魔法の一撃を。白く閃光で視界が塗りつぶされる。喚ぶなら、今だ。
アゼムは、大地に両の足を付け、手を広げた。大地へと自らの意識を潜らせ、地脈への接続を開始する。
……が、しかし。
アゼムはふつりと、自らそれを切った。あと少しで辿り着くところで、ある言葉を思い出したのだ。
(喚び出される側にもなってみろ、突然召喚されたと思えば、ぼろぼろになりかけているお前が居るんだぞ。……まったく、術を過信するな。いい加減、考えなしに首を突っ込むのを止めろ。第一、)
首を横に振り、長々と続く脳内の説教を中断する。ここで喚んだら絶対怒られる。最近の彼はもう、ただのハーデスではなく、「エメトセルク」として執務に忙しいのだし。
かと言って、アテになるのは彼くらいだ。と、なれば。
(うん、一人で片付ければ、こんなことになってたってバレない。難しいだけ。やれない訳じゃない)
敵を攻撃し、敵の遠距離を含む攻撃をいなし、後方の子供たちを守り、自らの怪我を癒やし、敵を斃す。工程は多いが、順序を間違えなければ大丈夫。師匠から一本取るよりかは幾分も簡単だ。
長引けば、ジリ貧になる。全力で殴って仕留めればいい。アゼムは魔法の一撃から身を起こしたゴーレムを見据え、両手を前に差し出した。力強く両手で柄を握る。大きな刃の輝く戦斧を構え、刃にエーテルを濃く巡らせた。
地面を蹴って突進し、振りかぶった斧を、思い切り胴に向かってフルスイングする。遠心力を重ねた重い一撃に、ゴーレムの身体がぐらりと傾いた。ずん、と大きな足音でたたらを踏んだ敵の顔の模様が、睨むようにギラギラと光っている。
「掛かってこいよ、お前じゃ絶対私を倒せない!」
言葉が通じるかは知らないが、好戦的に仕掛けたアゼムの挑発に、やっと子供たちは視界の外に押し出されたようだ。重い巨体は横に跳ねたアゼムを、足音を響かせて追い始めた。子供から引き離せれば、だいぶ戦いやすくなる。視線を外さないまま誘導すると、アゼムはエーテルの放出を更に強めた。
にや、と笑って、近付いては斧で魔力と胴体を削り取り、攻撃を誘っては跳ねて、死角から斧を振り下ろす。多少、保険で貼ったエーテル壁では庇いきれなかった部分に被弾はあるものの、このペースで行けば問題ない。短縮詠唱で傷を癒やしながら、アゼムは目を細めた。見えなかった心核の煌めきが、岩の隙間から漏れ出ている。
よし、今だ! アゼムは斧の柄を握り締め、ゴーレムへと飛びかかった。
ぶんと、空中で身体を捻る。
「い、いやっ……! 来ないで!」
それと同時に悲鳴が聞こえ、アゼムは目を見開いて視線を向けた。見れば、ゴーレムが散らしたはずの獣が、強者の不在に戻ってきていたらしい。蛇の頭を持つ亜人型の魔物が、寄り集まって怯える子供たちに近付いているのに、アゼムは振りかぶった斧を、迷わず投げ付けた。
回転しながら飛んだ大斧は、魔物の頭を斜めに裂いて吹き飛ばし、子供たちの背後に立っていた大木の幹に深々と突き刺さった。ほっ、と息を吐くアゼムの耳に、ぶおんと風を切る音がした。
「あ」
子供たちの悲鳴が聞こえた。咄嗟に障壁を展開したアゼムの胴体に、太い腕が振り抜かれる。衝撃とともに身体が吹っ飛び、アゼムは地面へと叩き付けられた。威力はだいぶ軽減しているが、肺から思い切り息が抜けた。
ちょっと! こっちは攻撃に結構魔力割いたんだけど! 泣き言を言っている時間もなく、回転して受け身を取り立ち上がったアゼムは、ゴーレムをキッと睨み付けた。ゴーレムの核の前で、濃縮されつつあるエーテルが光を放つ。いやいやいや、ビームはズルくない!?
とりあえず、凌がないと、ヤバイ。アゼムは掲げた手に、大盾を再び創り上げた。先程より魔力を消耗してしまったから、造りがかなり脆い。しかし、無いよりはマシである。ガン、と縁を地面に突き立てて、なけなしの魔力で翼を広げる。閃光が空気を震わせた。
光が目を焼く中で、アゼムは両手に力を込める。初撃は耐えた。の、だが。貫かんと照射され続ける光に、盾の構造の中央から綻びが出始めた。ヤバイヤバイ。アゼムは、顔を引き攣らせた。
その時である。アゼムの盾の上を、黒い光が覆った。蔦が絡むように脆い部分を補強するばかりか、アゼムを中心として、紋の入った球体状のバリアが拡がる。それは同心円状に拡大していき、放たれていた閃光を弾き飛ばした。
アゼムの肩に、人間の手が置かれる。突然の接触に対して、アゼムは振り返ることが出来なかった。この護りの術式は、よーく見知ったものである。その手はアゼムのローブの後ろを掴み直し、ぐっと引き倒した。力の抜けたアゼムは、ごろんと逆らえぬままに転がされた。
「下がっていろ」
地面に転がったまま、アゼムは呆然と大剣を構えるその男を見上げていた。大技を放ったあと、すぐには動けないのか、ゴーレムは息切れしたように立ち尽くしている。そんな敵に対して、男は――エメトセルクは、大剣を振りかぶり、大地を蹴った。
急接近して、斬りつける。戦いで消耗していたのは、ゴーレムも同じだ。的確に心核を狙う剣捌きに、大きな身体がよろける。すかさず足を大きく薙いだ大剣に、身体は完全に横倒しになった。土煙を上げた巨体の隙間へと、エメトセルクはその切っ先を突き刺した。
灯っていた光が、消える。辺りには、静寂が取り戻された。
風の音しかしなくなったところで、最初に動いたのはアゼムだった。ローブのフードを目深に被り、地面を這ってこそこそと後ずさるアゼムに、尖った声が突き刺さる。
「アゼム、逃げられると思うな。お前は馬鹿なのか。……馬鹿なのは知っていたが、まさか、ここまでとは……」
びく、とアゼムは肩を跳ねさせ、そろそろと顔を上げた。ゴーレムから離れたエメトセルクが、真っ直ぐアゼムに向かい、ゆっくりと近付いてくる。仮面に隠されているが、その口元だけで表情は鮮明だ。アゼムは両手を肩口で上げた。
「いや、あの、えっと。あ、そうだ。あの、何で、きみ、ここに居るわけ……?」
盛大な舌打ちが返された。今更その程度で怖がるような肝はしていないが、友人を怒らせるのは好ましくはない。大剣をエーテルに還し、エメトセルクは腕を組んでアゼムを見下ろした。
「親切な依頼者から通報があった。手早く終わらせると言ったお前が帰ってくる気配がないと」
「そ、そうなんだ〜……。いや、見ての通りね? 本来の討伐対象じゃないのが出てきちゃって、緊急性が高かったから! 私が対処するしか無かったと言うか!」
「一報も入れられん程に追い詰められていたと」
「そ、そう!」
はぁ……。と、闇を煮詰めたような重苦しい溜め息が吐かれた。首を振ったエメトセルクは、背を屈め、伸ばした指の先でぴん、とアゼムの額を弾いた。至近距離から、瞳を覗き込むように睨み付ける。
「何故喚ばない」
「……えっ?」
アゼムは驚いて顔を上げた。苦々しい、という顔をしたエメトセルクと向かい合わせになったアゼムは、ゆっくりと視線を外して泳がせる。どうしたら言い訳が立つものか、エーテル不足で脳が上手く回らない。日頃もそんなに回ってないだろうが、とエメトセルクには言われそうだけれども。
無言で睨んだままのエメトセルクが放つ怒りのオーラに、耐えきれなくなったアゼムは、唇の端を引き攣らせて笑った。返されるのは、溜め息がひとつ。
「笑って誤魔化せると思うなよ」
「……怒らない?」
「つまり私が怒る理由だと」
「もう既に怒ってるから何の意味もないなぁ……」
アゼムは俯き、がしがしとローブの上から頭を掻いた。
「きみ、言ったろ。突然ピンチに召喚されたくないって。術を過信するな、とも言ってたし。だから、その。……えーっと、喚んだら絶対に怒られると思ったし、怒られるより、ちょっと頑張ってバレないように片付ける方が良かったと言うか、何というか」
俯いたままのアゼムは、怒鳴られるのを覚悟してぎゅっと目を瞑り、両手でフードを下ろしていたが、目の前の男の反応がないのに気付き、窺うように顔を上げた。見上げた先は、無言。そして、無表情。
これまでになく、怒ってる……! 更に後ずさりしたくなったが、地面にぺたりと座り込んだまま足が動かない。魔力不足ですっかり萎えてしまっている。エメトセルクは、腹立たしげに目を閉ざした。
「分かっていたが、本当にお前は、何も分かっていないんだな」
「ご、ごめん……?」
「誠意のない謝罪だな」
「は、反省はしてる!」
慌ててエメトセルクのローブの袖を掴んだアゼムに、エメトセルクは眉間の皺を深めた。振り払うこともなく、ただ、小さく呟いた。
「どうせ、お前は繰り返すんだ。……何度でも。止めようとも」
アゼムはその悲痛な面持ちに、目を丸くした。失敬な、そこまで絶望させる程ではない、と唇を尖らせて首を横に振る。
「私だって、学習しない訳じゃないからね? 今度は、怒られたくないからって一人では行かないよ、流石にさ。……バレたら、もっと怖いの、分かったし」
エメトセルクは息を吐いて、へたり込んでいたアゼムに向かって手を伸ばした。
差し出された手とともに、柔らかくなった空気を感じ取って、アゼムは顔を輝かせる。腕は重いが、すぐに回復する筈だ。
「エーテル、分けてくれる? 世話を掛けるねぇ」
「お前は私を便利なエーテル貯蔵庫と勘違いしていないか?」
一度は指先が触れた手を、エメトセルクは落とした。あっ、とアゼムが声を上げ、呆然と見上げる。
「ちょ、ちょっと。悪かったって。ごめん、本当に立てなくてさ」
「うろちょろされなくて都合が良いことだ」
「わっ!?」
しゃがみこんだエメトセルクは、アゼムの細い体に腕を回し、肩に担ぎ上げた。急に変わった視界にアゼムは目を回したが、抵抗するほどの体力も残っていない。落とされまいと、何とかしがみつく。
「……きみ、やっぱりまだ、物凄く怒ってる? 私だって、これ以上は無理出来ないし、真っ直ぐアーモロートに帰るってば」
「どうだか」
背中側に腕と頭を垂らされれば、どう頑張ってもフードを被ったその表情は窺うことが出来ない。少し身体を捻ってみたが、腰と脚を強く抑えられ、アゼムはすぐに諦めて力を抜いた。もう止めておこう。抵抗しても良いことはなさそうだ。
「あの……、お姉さん、だいじょうぶ?」
子供の声が聞こえ、アゼムは振り返れないまま、ひらひらと高く手を上げて見せた。
「お兄さん、あの、あんまり怒らないであげてください。僕たちのこと、守ってくれたから、お姉さん、ケガしちゃって」
「……そんなことだろうと思った」
口々に許してあげて、と言う子供たちに取り囲まれ、エメトセルクは、低い声でそう言った。そして、諦めたように目を伏せた。
「やぁ、エメトセルク。……また、アゼムはボロボロだねぇ」
待ち構えていたように、エーテライトの側で声を掛けてきたヒュトロダエウスに、エメトセルクは顔を顰めた。こいつは毎回、どこで聞きつけてくるんだ。
担ぎ上げたアゼム当人は、移動の最中、図太い神経で眠りに落ちていた。弛緩して重さを増したところで、その身体はこうして抱えられる程度しかない。そんな身体で、いつだって勢いよく、最前線に飛び出していく。
治療こそ施したが、編み直していないローブは攻撃により擦り切れて、かなりほつれている。いつもの、ことだ。エメトセルクの表情に、ヒュトロダエウスは小さく苦笑した。
「キミが血相を変えて飛び出していったと聞いたから、絶対にアゼムのことだろうなって思っていたんだけど。……ひどくご立腹だね。何があったんだい?」
エメトセルクは、重い溜め息を吐いた。
「誰も喚ばず、ひとりで戦い、窮地に陥っていた。何故喚ばないのかと詰めれば、『今喚ぶと怒られると思ったから』だと」
ヒュトロダエウスは、ぽかん、と口を開けて、すやすやとエメトセルクのローブを握って眠るアゼムを見上げた。そして、エメトセルクの不機嫌な横顔を見て俯き、肩を震わせた。
「らしいと言えば、らしいけど、さぁ?」
「喚ぶなとは言ってない。窮地に陥ってから喚ぶのを止めろと言った。自らの術を過信して、周囲を置いて一人で何もかも片付けようとするのも止めろと言った。行動を起こす前に委員会に一報入れろ。一度立ち止まって考えろと。それが、何も。欠片も、伝わっていない」
「だって、アゼムだもの」
ヒュトロダエウスは笑う口元を隠しながら顔を上げ、エメトセルクに向かって目を細めた。
「キミの善意は硬い言葉に隠れちゃうしね? 直接的に言わなきゃ駄目なんじゃない? 『毎回傷付いたお前を見せられる気持ちになってみろ』『無理をするお前が心配だ』ってさ」
それを聞いて露骨に厭な顔をしたエメトセルクに、ヒュトロダエウスはくすくすと笑った。そんな風に言えているなら、彼らの関係は既にだいぶ違うものになっていただろうし、それを言われてもなお突き進む、アゼムの背中が目に浮かぶようだ。
もぞり、とエメトセルクに抱えられたアゼムが身じろいだ。むにゃむにゃと何か言葉を漏らし、そしてエメトセルクにぎゅうと抱きつくものだから、驚いたようにエメトセルクが身体を強張らせた。そして、はっ! とアゼムが覚醒したのに合わせて、エメトセルクがその身体を地面に捨てた。
「うわっ! ここ、アーモロートだ!」
「寄り道できなくて良かったな」
エメトセルク、エーテルちょうだい! とローブの裾に縋り付くアゼムと、もう私からそれなりに吸っているだろうが、さっさと立て。と足蹴にするエメトセルクを見つめて、ヒュトロダエウスは微笑んだ。
全く、エメトセルクも厄介な相手を好きになったものだ。
彼女は人のために走り続け、その細い身体で武器を振るい続ける。その生き方が好きだと、それしか出来ないと全身で訴えている。
彼女は優しい人じゃない。こと、彼女を好きな人にとっては。彼女を守るなんて、世界で一番難しい難題なんじゃないだろうか。
輝く星は照らすばかり。光を降らせど、愛されている自覚など、とんとないのだ。
彼女は、善く。そして、残酷な人間である。ようやく掴んだ手で立ち上がる彼女は反省した顔をして、眉を寄せて彼女を見下ろす彼の機嫌をとっている。そんな姿を眺めて、ヒュトロダエウスは頷いた。
もしも学ばず次を繰り返すなら、そろそろ失う前に本気で行けと、友人をけしかけてしまおうか。
まぁ、必ず。近いうちに、それは訪れるのだけれど。
