あ、居た居た! と、アゼムは大きくぶんぶん手を振った。話をしていた二人がそれに気付いて振り返る。駆け寄ったアゼムに、ヒュトロダエウスは微笑みながら首を傾げた。
「どうしたんだい、アゼム? 今日の用事はなあに?」
「今日はエメトセルク宛! ほら、これ」
会話の相手であったエメトセルクに向かって、アゼムは持っていた物を差し出した。それは小さな記憶のクリスタルで、淡い桃色をしている。簡単に解ける封呪の掛かったそれを、エメトセルクはじっと見下ろしている。
ようやく差し出した手にクリスタルを乗せるのを傍から見ていたヒュトロダエウスは、口元に手を当てて小さく笑った。
「ねぇ、アゼム。それが何だかキミは知っている?」
「ううん? 私がお願いされたのは、これを届けて欲しいってだけだから。中身のことはなんにも?」
「これね、ラブレターだよ」
「ラブ、レター……?」
さも、その単語自体を初めて聞いたように、アゼムは呆然とその言葉を繰り返した。ラブレター。恋文。好いた相手に贈るメッセージ。普段は割と機敏に動いてくれる脳が働かず、アゼムはトントンと頭を叩いた。やがて届いたところで、目を見開いて叫ぶ。
「もしかしてエメトセルクってモテるの!?」
「本人を前にしてそういうことを言うなお前は」
受け取ったクリスタルを開かずにしまったエメトセルクが、やれやれと首を振った。ヒュトロダエウスは俯いて肩を震わせている。
アゼムは呆然とした顔で、エメトセルクをじっと見つめた。エメトセルクは平然とした様子で視線を返した。
「え、えぇえ……」
「私だから構わんが、他のやつにやったら相当失礼な態度を取っているのに気付いているか?」
「……ッ、フフ、エメトセルクはモテるよ? 見た目は少し怖いけど、むしろ物憂げな目元が良いだとか、実際に接すると紳士的で優しいとか、専らの評判なんだから」
「もしかして、今まで私が渡してた手紙や記録機とかって、全部ラブレターだったの!?」
「…………」
「うっそぉ……なんか複雑な気分……」
「何だお前、悔しいのか」
がっくりと肩を落とすアゼムを、エメトセルクが鼻で笑った。それを見ていたヒュトロダエウスは、アゼムもエメトセルクと同じように、今まで助けた相手から好意を持たれることがしょっちゅうあることを伝えるか迷ったが、一旦保留にした。せっかく事態が面白い方向に動いているので、まずは見守りたい。
「悔しい? ううん、違うよ、それは」
負けず嫌いは煽られず、首を横に振った。腕組みをして、唇を尖らせる。言葉を探すように宙を見て、アゼムは口を開いた。
「エメトセルクがいい男なのは、一番そばで見ている私が一番知っているよ。優しいし、面倒見いいし、魔法すごい強いし、大剣振り回してるの見るとカッコいいと思うし……」
「わお」
ヒュトロダエウスはにこやかに、隣に立つ友人を見た。信じられないものでも見るかのように目を見開いて固まっている。つんつん、と肘でつついてみると、乱暴に振り払われた。アゼムの方は、地面をぐりぐりとつま先で掘り起こすのに専念しており、二人に気付く様子はない。
「でもさ。それ、私だけが知ってると思ってたのに。……取られたみたいな気持ちが半分と、皆にもっとエメトセルクの良いところ知ってほしい気持ちが半分で、戦ってる」
「だってさ、エメトセルク」
「うるさい」
不機嫌な顔を装って溜め息を吐いた友人を見て、素直じゃないなぁ、とヒュトロダエウスは肩を竦めた。
アゼムはぱっと顔を上げ、必死な顔で訊ねた。
「ねぇ、これからラブレター貰った時、どうしたらいい? 私、どんな顔して持っていけばいいのさ……」
「……直接持って来させろ。もう心に決めた相手が居ると言えば諦めるだろう」
「心に決めた相手が居るの? 誰? 私が知ってる人? いつの間に?」
「方便だ馬鹿」
ぴん、とエメトセルクがアゼムの額を弾いているのに、ヒュトロダエウスは「あーあ」と小さく呟いた。ここでお前だとか言っておけばいいのに。冗談と思われるかもしれないけど……。
アゼムは額を押さえて、勢いよく顔を上げた。
「分かった、これから私は、きみへのラブレターを貰ったら『もう心に決めた人がいるから』って断ることにする。エメトセルクもその方が手間じゃないだろ?」
ヒュトロダエウスは横を見た。エメトセルクは目を逸らした。
それ、アゼムからの宣戦布告になっちゃうんじゃないの、という目であったが、当人が了承しているのであればこれ以上口を挟む理由もない。任せて! と意気込むアゼムを見遣って、その場は一旦収まった。
が、しかし。
「アゼムが悲壮感漂わせて断るせいで、アゼムに失恋の噂が立っているらしいね?」
「……知るか、そんなこと」
「お陰様でワタシの所にアゼム宛のラブレターがいっぱい回ってくるんだけど、どう思う?」
頬杖を突き、にこやかに笑うヒュトロダエウスに、エメトセルクはむすりと返した。
「ノーコメントだ」
